帰国前後の海外不動産の売却と日本の税金|売るタイミングで変わる課税範囲

海外赴任中や海外生活中に購入した住宅を、帰国にあたってどうするか。売却を検討される方からよくいただくご質問です。

結論から言うと、海外不動産の売却益が日本の課税対象になるかどうかは、「いつ譲渡したか」と「そのとき日本の居住者だったか」で決まります。一般論としては、日本の居住者になる前に譲渡が完了しているものは日本の所得税の課税対象外となるのが原則です。一方、居住者(非永住者以外)になった後の売却は、国外の物件であっても日本で譲渡所得として申告の対象になります。

この記事では、その分かれ目と、実際に申告が必要になった場合の論点を整理します。

この記事の対象となる方

海外に居住用または投資用の不動産を持っていて、本帰国の前後で売却を検討している方を想定しています。売らずに持ち続ける場合の論点にも最後に触れます。

前提1: 居住区分で課税範囲が変わる

出発点は居住区分です(居住者判定の解説参照)。

区分 海外不動産の譲渡益の扱い(原則)
非居住者(帰国前) 日本では課税されない(国内源泉所得に当たらないため)
居住者(非永住者) 国外源泉所得のため、国内払い・国内送金がなければ課税対象に含まれない場合がある
居住者(非永住者以外) 全世界所得が対象となり、譲渡所得として申告対象

日本国籍の方は帰国日から原則「非永住者以外の居住者」です。つまり、帰国日を境に扱いが切り替わります(切り替わりの解説参照)。

前提2: 「いつ譲渡したか」は引渡しの日が原則

帰国の前後で売却する場合に決定的になるのが、譲渡の時期の判定です。

譲渡所得の収入すべき時期は、原則として資産の引渡しがあった日とされています。ただし、売買契約の効力が発生した日(契約日)によることも認められています(所得税基本通達36-12)。

海外の不動産取引は、契約から決済・引渡しまで数か月かかることも珍しくありません。契約は帰国前、引渡しは帰国後というケースでは、どちらの日で判定するかによって課税関係が変わり得ます。売却を進める前に、契約日と引渡予定日、帰国予定日の3つを並べて確認しておくことをおすすめします。

論点1: 帰国前(非居住者のうち)に売却する場合

非居住者が課税されるのは国内源泉所得に限られます。国外にある不動産の譲渡による所得は国内源泉所得に当たらないため、日本では課税されないのが原則です。

ただし、次の点は個別の確認が必要です。

  • 引渡しが帰国後にずれ込み、居住者となった後の譲渡と判定される可能性がないか
  • 現地(所在地国)での課税と申告義務(日本で課税されないことと、現地で課税されないことは別の話です)
  • 売却代金を国外の口座に置いたまま帰国する場合、その年の12月31日時点で国外財産調書の対象になり得ること

論点2: 帰国後(居住者になった後)に売却する場合

居住者(非永住者以外)になった後の売却は、国外の物件でも日本の譲渡所得として申告対象になります。土地・建物等の譲渡所得は他の所得と分離して課税され、譲渡した年の1月1日時点の所有期間が5年を超えるかどうかで長期・短期に区分されます(国税庁タックスアンサーNo.3202・No.3208)。

円換算で損益が変わることがある

実務でいちばん注意が必要なのは為替です。譲渡所得は円で計算するため、収入金額は譲渡時の為替相場で、取得費は取得時の為替相場でそれぞれ換算します。

つまり、現地通貨ベースでは値上がりしていなくても、購入時より円安が進んでいれば円換算では利益が出る、ということが起こり得ます。逆のケースもあります。「現地では損しているのに日本で課税されるのか」というご質問をいただくことがありますが、円換算の結果として生じる差はこの計算に含まれます。

取得費の資料は帰国前に確保する

取得費(購入価額・購入時の諸費用・資本的支出)を証明できる資料がないと、計算そのものが成り立ちません。購入時の契約書、決済明細、現地での登記・登録関係の書類は、現地にいるうちに手元に揃えておいてください。取得費が不明な場合の取扱いは個別の確認事項になります。

論点3: 現地でも課税されたとき

所在地国で譲渡益課税を受けている場合は、日本の申告に含めた上で外国税額控除による二重課税の調整を検討します(No.1240)。控除には限度額があり、現地で納めた税額の全額が日本の税額から引けるとは限りません。現地の申告書控えと納税を証明する資料が必要になります。

論点4: 居住用だった物件の特例

ご自身が住んでいた家屋を売る場合、日本の税制には居住用財産の特別控除などの特例があります(No.3302)。国外にある物件についてこれらの特例が使えるかどうかは、居住の実態・譲渡の時期・他の特例との関係などから個別に判断する必要があるため、この記事では適用できると断定しません。該当しそうな方は、資料を拝見した上でのご相談をご利用ください。

論点5: 売らずに持ち続ける場合

売却しない選択も当然あります。その場合は、帰国後に次の対応が毎年続きます。

  • 賃貸に出している場合の不動産所得の申告(現地でも課税されていれば外国税額控除の検討も毎年)
  • 12月31日時点の国外財産の合計が5,000万円を超える場合の国外財産調書の提出
  • 現地の固定資産税等の負担と、管理・修繕の手配

維持と売却のどちらが合っているかは、物件の収益性・為替・ご家族の状況で変わります。税金だけで決まる話ではありませんが、税務の手間とコストは判断材料のひとつになるかと思います。

時系列の整理

時期 主な論点
帰国前 契約日・引渡日と帰国日の関係、取得費資料の確保、現地の申告義務
帰国年 居住者となった後の譲渡なら譲渡所得の申告、円換算、外国税額控除
帰国翌年以降 保有継続なら賃貸収入の申告と国外財産調書、売却代金を国外に置く場合の調書

必要資料チェックリスト

  • 購入時の売買契約書・決済明細(取得費の証明)
  • 売却時の売買契約書・決済明細(収入金額・譲渡費用の証明)
  • 引渡日が分かる書類(譲渡の時期の判定に使います)
  • 現地での申告書控え・納税証明(外国税額控除の検討に使います)
  • 取得時と譲渡時の為替相場が確認できる資料
  • 資本的支出(増改築等)の領収書

よくある誤解

「現地で税金を払ったから日本では何もしなくてよい」 — 居住者になった後の譲渡は日本でも申告対象です。現地の税金は外国税額控除で調整する、という順序になります。

「住民票を抜いているから非居住者のまま」 — 居住者判定は入国日と生活の本拠で行います。住民票の登録日ではありません。

「売却代金を日本に送金しなければ関係ない」 — 非永住者以外の居住者は、送金の有無にかかわらず国外の譲渡益も課税対象になり得ます(送金と税金の解説参照)。

「現地通貨で損しているから申告は不要」 — 円換算で利益が出ることがあります。損益の判定は円ベースです。

相談するタイミング

理想は、売却活動を始める前です。契約日と引渡日をいつに置くかは、交渉の中である程度動かせることがあります。帰国日が決まっている方は、その前後で課税関係が変わるため、スケジュールを並べた段階でご相談いただくと選択肢が残ります。

すでに売却が済んでいる方も、取得費資料と現地の納税資料が揃っていれば申告の整理はできます。資料の所在から一緒に確認します。

当事務所では、まず15分の無料オリエンテーションで対応可否と進め方をご案内し、譲渡の時期の判定や特例の適用可否など個別の判断が必要な内容は、資料を拝見した上で個別相談にてお答えしています。

参考資料(公式)

※ 本記事は一般的な情報の整理であり、譲渡の時期の判定・特例の適用可否・取得費の計算は物件とご事情によって結論が変わります。ご自身のケースへの当てはめは、契約書等を確認した上での個別のご相談をご利用ください。

監修この記事の監修浅井匠也(税理士・公認会計士)プロフィール →

「自分の場合はどうなる?」と思ったら

帰国時期・資産の内容・ご家族の状況で結論が変わるのが帰国者の税務です。 まずは15分の無料オリエンテーションで、対応可否と進め方をご確認ください。

無料で相談してみる個別の税務判断は、資料を拝見した上で有料の個別相談にてご案内します
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を行うものではありません。 記載内容は公開日または最終更新日時点の法令等に基づいています。 個別のご事情への適用については、必ず税理士等の専門家にご確認ください。
無料相談を申し込むLINEで相談