「帰国前に、向こうの口座のお金をまとめて日本に送っても大丈夫でしょうか」。帰国準備のご相談で、必ずと言っていいほど出てくる質問です。
結論から言うと、自分の海外口座から自分の日本の口座へお金を移すこと自体に、所得税がかかるわけではありません。送金は「所得が発生する行為」ではなく、資産の置き場所を移す行為だからです。
ただし、送金にまつわる論点がないわけではありません。むしろ、次の4つは帰国前に整理しておく価値があります。
- 非永住者に当たる方の「送金課税」との混同
- 100万円を超える国外送金は税務署に情報が届くこと
- 家族名義の口座に送ると贈与とみなされ得ること
- そもそも「送金の前に何を受け取るか」のほうが影響が大きいこと
この記事の対象となる方
海外の銀行口座・証券口座の資金を、帰国にあたって日本へ移すことを検討している方を想定しています。住宅購入資金として送る予定の方にも共通する内容です。
論点1: 「送金に課税される」と言われるのは非永住者の話
「海外から送金すると課税される」という情報を見かけることがありますが、これは非永住者に当たる方の課税範囲の話です。
非永住者とは、日本国籍がなく、過去10年以内に日本に住んでいた期間の合計が5年以下の方をいいます。この方は、国外源泉所得のうち国内で支払われたもの、または日本に送金されたものが課税対象になります(国税庁タックスアンサーNo.2010)。この仕組みが「送金課税」と呼ばれています。
つまり、課税されているのは送金そのものではなく、送金によって課税範囲に入ってきた国外源泉所得です。日本国籍の方は帰国日から原則「非永住者以外の居住者」となり、この送金課税の仕組みは適用されません。全世界所得が課税対象になるかわりに、送金の有無は課税範囲に影響しないという整理です。
外国籍の配偶者がいらっしゃるご家庭では、ご夫婦で扱いが分かれることがあります。該当しそうな場合は、送金の時期の設計が論点になります。
論点2: 100万円を超える送金は税務署に情報が届く
国内の金融機関を通じて行われる1回100万円を超える国外送金・国外からの受金については、金融機関から税務署へ「国外送金等調書」が提出されます(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律)。
これは違法でも何でもない、通常の制度上の情報提供です。送金したから課税される、という意味でもありません。ただ、資金の性質を説明できる状態にしておくことは大切です。給与の蓄積なのか、資産を売却した代金なのか、退職一時金なのか。後から「これは何のお金か」と確認を受けたときに、資料で答えられるようにしておきます。
送金を複数回に分けて100万円以下にする、といった対応をお勧めすることはありません。説明できる資金であれば、そのまま送って問題ありません。
論点3: 家族名義の口座に送ると贈与になり得る
実務でいちばん事故が起きやすいのがここです。
ご自身の海外口座から、配偶者やお子様の名義の日本の口座へ直接送金すると、その送金が贈与と認定される可能性があります。贈与税は受け取った人が納める税金で、年間110万円の基礎控除を超える部分が対象です(No.4402)。
避け方はシンプルで、いったんご自身名義の日本の口座に送金することです。海外の自分の口座から日本の自分の口座への移動は、名義が同じなので贈与の問題は生じません。家族へ資金を渡す必要がある場合は、その後の話として別途検討します。
論点4: 住宅を買う場合は「出した人」と「持分」を合わせる
帰国と同時に住宅を購入される方も多いですが、ここでも同じ論点が出てきます。
購入資金を誰がいくら出したかと、登記する持分の割合がずれていると、その差額が贈与として扱われ得ます。海外から送金した資金でご自身が全額を負担しているのに、持分を配偶者と半分ずつにする、といったケースが典型です。
住宅ローンの有無、頭金の出どころ、名義の置き方は、送金の前に整理しておくと後戻りがありません。資金の流れが記録として追えるよう、送金明細は必ず保存してください。
論点5: 送金より先に「受け取り方」を考える
ここまで送金の話をしてきましたが、帰国前の資金移動で本当に効いてくるのは、送金そのものよりも何を、いつ受け取るかです。
海外の退職一時金や年金の一括受け取りなどは、日本の居住者になる前に受領が完了しているものは日本の所得税の課税対象外となるのが原則です。受け取りの時期は制度側の制約(年齢要件・手続き期間)もあるため、帰国日が決まる前に棚卸ししておくと選択肢が残ります。
一方、口座に入っているお金を送るだけであれば、帰国後に送っても課税関係は基本的に変わりません(非永住者に当たる方を除きます)。急いで送ることより、受け取りの順序を整えることのほうが影響が大きい、というのが実務の感覚です。詳しくは総合ガイドをご覧ください。
為替の扱いについて
外貨で持っていた資金を円に換えるときの為替差益は、所得として課税対象になる場合があります。外貨預金を円転した場合や、外貨建ての資産を売却した場合などが該当し得ます。
一方、外貨のまま日本の外貨預金口座へ移すだけであれば、その時点では損益が実現していないと整理されるのが一般的です。どの時点で損益が実現するかは資産の種類と取引の形によって異なるため、まとまった金額を動かす前に確認しておくことをおすすめします。
時系列の整理
| 時期 | 主な論点 |
|---|---|
| 帰国前 | 受け取りの時期の設計(一時金・年金)、送金元と送金先の名義の確認、資金の性質を示す資料の保存 |
| 帰国年 | 非永住者に当たる場合の送金のタイミング、住宅購入時の資金負担と持分 |
| 帰国翌年以降 | 国外に残した口座の利子・配当の申告、国外財産調書の要否 |
必要資料チェックリスト
- 送金明細(送金日・金額・送金元口座・送金先口座が分かるもの)
- 送金した資金の性質が分かる資料(給与明細、資産の売却明細、退職一時金の支払通知など)
- 外貨で保有していた場合の取得時・円転時の為替相場が分かる資料
- 住宅購入の場合: 売買契約書、資金負担の内訳、登記の持分が分かる資料
よくある誤解
「送金したら必ず税金がかかる」 — 送金自体は所得ではありません。課税の対象になるのは、送金によって課税範囲に入る国外源泉所得がある場合(非永住者)です。
「100万円以下に分ければ分からない」 — 分割送金を前提にした対応はお勧めしません。説明できる資金であれば、そのまま送って差し支えありません。
「家族の口座に送っても家族内なら問題ない」 — 名義が変われば贈与の問題が生じ得ます。まずはご自身名義の口座へ送るのが基本です。
「帰国前に全部送っておけば安心」 — 送金より先に、受け取りの時期を整えるほうが効果が大きい場面が多くあります。
相談するタイミング
送金の論点そのものは、整理すればシンプルです。むしろご相談いただきたいのは、帰国日が決まる前の段階です。一時金や年金の受け取り、資産の売却、住宅の購入といった大きな判断は、順序を決めた後では動かせなくなります。
すでに送金を済ませている方も、資料が残っていれば後からの整理はできます。送金明細と資金の出どころが分かるものをお手元にご用意ください。
当事務所では、まず15分の無料オリエンテーションで対応可否と進め方をご案内し、非永住者該当性や受け取りの時期の設計など個別の判断が必要な内容は、資料を拝見した上で個別相談にてお答えしています。
参考資料(公式)
- 国税庁 タックスアンサー No.2010 納税義務者となる個人
- 国税庁 タックスアンサー No.2012 居住者・非居住者の判定
- 国税庁 タックスアンサー No.4402 贈与税がかかる場合
- 国税庁 タックスアンサー No.7456 国外財産調書の提出義務
- 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律 — e-Gov法令検索
※ 本記事は一般的な情報の整理であり、非永住者該当性・贈与の判定・為替差損益の取扱いはご事情によって結論が変わります。ご自身のケースへの当てはめは、資料を確認した上での個別のご相談をご利用ください。