帰国年の給与はどこまで日本で課税される?判定は勤務地ではなく支払日

帰国年の確定申告で、実務上いちばん誤解が多いのが給与です。「海外で働いた分の給与だから、日本の税金には関係ない」— この直感は、原則として正しくありません。

結論から言うと、給与の課税判定は勤務地ではなく、支給日(支給期)がいつ到来したかで行うのが原則です(所得税基本通達36-9、国税庁タックスアンサーNo.2518)。帰国して居住者になった後に支給された給与は、海外勤務期間に対応する部分を含んでいても、原則としてその全額が日本の課税対象になり得ます。

この記事の対象となる方

海外勤務(駐在・現地採用)から年の途中で帰国し、帰国の前後に給与・賞与の支給があった方を想定しています。とくに、帰国後に「海外勤務分の最終給与・賞与」が支給された方は、この記事の中心的な読者です。

前提: 判定の物差しは「支払日」×「居住区分」

帰国年の給与は、次の2つの物差しを重ねて整理します。

  1. その給与の支給日(支給期)はいつか — 給与所得の収入計上時期は、契約や慣習で支給日が定められている場合はその支給日です(所基通36-9)
  2. その日、自分はどの区分だったか — 非居住者(国内源泉所得のみ課税)か、居住者(原則すべて課税)か(居住区分の解説参照)

この2つの組み合わせで、パターンごとの原則が決まります。

支給日 給与の性質 日本での扱い(原則)
帰国前(非居住者期間) 海外勤務分 課税対象外
帰国前(非居住者期間) 日本勤務分など国内源泉分 源泉徴収等で課税
帰国後(居住者期間) 日本勤務分 課税対象(年末調整の対象にも)
帰国後(居住者期間) 海外勤務分を含む給与・賞与 原則、全額課税対象になり得る

問題は表の最終行です。以下で詳しく見ます。

論点1: 帰国後に支給された「海外勤務分」の給与・賞与

海外駐在からの帰任では、帰国後に次のような支給が発生しがちです。

  • 海外勤務最終月の給与(締め日と支給日のずれで、支給が帰国後になる)
  • 海外勤務期間を対象とする賞与・インセンティブ
  • 帰任にともなう手当・精算金

これらは勤務の実態が海外でも、支給期が居住者期間に到来していれば、原則として全額が日本の課税対象になり得ます。「勤務地で按分して海外分は除く」という整理を居住者期間の給与にそのまま当てはめることはできません。ここが勤務地基準で考えてしまう誤りの典型です。

逆に、同じ給与が海外側でも(勤務地国として)課税されることがあります。この場合の二重課税は、外国税額控除(No.1240)や租税条約による調整の検討対象です。条約には短期滞在者免税など課税権の配分ルールがあり、どちらの国がどこまで課税できるかは国・条約・滞在状況によって変わります。ここは資料に基づく個別判断の領域です。

論点2: 帰国前(非居住者期間)に支給された給与

非居住者期間に支給期が到来した給与は、国内源泉所得(日本勤務に対応する部分など)だけが日本の課税対象です。海外勤務に対応する給与は、日本では課税されません。

なお、非居住者期間に日本の会社から国内勤務対応分の支払いがあった場合などは、20.42%の源泉徴収で課税関係が完結しているのが通常で、確定申告に含めない整理になります。該当があるかどうかは支給明細で確認してください。

論点3: 年末調整との関係 — 「済んだから終わり」ではない

帰国後に日本の会社に勤務すると、その給与は年末調整の対象になります(No.2518)。年末調整の対象になるのは、原則として居住者になった後に支給された給与です。

ただし、帰国年は年末調整だけで完結しないことが多い年です。次のいずれかがあれば、確定申告の要否を必ず確認してください。

  • 帰国後に支給された海外勤務分の給与・賞与が、年末調整の集計に含まれていない
  • 海外の利子・配当・不動産収入・年金など、給与以外の所得がある
  • 外国税額控除・医療費控除など、年末調整で扱えない控除を受けたい

会社の給与システムが帰任者の支給を正しく拾えているかは、会社側でも判断が分かれることがあります。源泉徴収票と実際の支給履歴を突き合わせるのが確実です。

チェックリスト: 給与まわりで集める資料

  • 帰国前後の給与明細・賞与明細一式(支給日が分かるもの)
  • 雇用契約・出向契約(給与をどの会社が・どの通貨で払うか)
  • 帰任辞令(帰国日・帰任日の証拠)
  • 日本の会社の源泉徴収票(帰国年分)
  • 海外側の源泉徴収・納税の証明(現地の源泉徴収票に相当する書類・Tax Return)
  • 帰任にともなう手当・精算金の支給通知

よくある誤解

「海外で働いた分の給与は日本と関係ない」 — 判定は勤務地ではなく支払日です。帰国後に支給されたものは、海外勤務分を含めて課税対象になり得ます。

「支給日はいつでも同じ。勤務した月で考えればいい」 — 収入計上時期は支給期で判定します。締め日と支給日のずれで帰国をまたぐ場合、結論が変わり得ます。

「海外でも課税されたから日本では申告しなくていい」 — 二重課税は申告した上で外国税額控除等により調整する順序です。申告から外すと申告漏れになります。

「年末調整が済んだから確定申告は不要」 — 帰国年は年末調整で拾いきれない支給・所得・控除が生じやすい年です。要否の確認を省略しないでください。

相談するタイミング

給与の論点は、支給スケジュールが分かった時点で整理できます。帰任が決まったら、最終給与・賞与の支給日と帰国予定日の前後関係を一覧にしてみてください。支給日が帰国をまたぐことが分かった段階でご相談いただくと、必要資料の集め方から二重課税調整の段取りまでご案内できます。帰国年の申告全体の流れは帰国年の確定申告 完全ガイドをご覧ください。

当事務所では、まず15分の無料オリエンテーションで対応可否と進め方をご案内し、個別の判断が必要な内容は資料を拝見した上で個別相談にてお答えしています。

参考資料(公式)

※ 本記事は一般的な情報の整理であり、支給の内訳・契約形態・海外側の課税状況によって結論が変わります。ご自身のケースへの当てはめは、給与明細と契約資料を確認した上での個別のご相談をご利用ください。

監修この記事の監修浅井匠也(税理士・公認会計士)プロフィール →

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を行うものではありません。 記載内容は公開日または最終更新日時点の法令等に基づいています。 個別のご事情への適用については、必ず税理士等の専門家にご確認ください。
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